2014年3月20日木曜日

雪の日 樋口一葉ゆかりの路地を彷徨う + 一葉日記をちょっとだけ適当現代語訳




 さてと、だいぶ現実時間との乖離が大きくなってまいりましたが(笑)、
今回は2014年2月14日のお話。



前週に引き続き、またもや(関東にしては)記録的な大雪が降りました。



高速道路はかなりの区間で通行止め、車列が雪に埋もれ身動きが取れなくなってしまったり、
関東各地の集落も、除雪した雪の置き場所さえなくなり孤立してしまうほどの猛烈な雪が降ったので、
「東京で雪がよく似合う場所はどこかなぁ」と考え、ふと思いついた場所へ、お散歩に行ってきました。



みなさんは、「雪が似合う場所」で、どんな所を思いつきますか?

(雪国の人は「雪の事なんか考えたくもねぇや」とうんざりするかな( ;´Д`))



俺が「雪がよく似合う場所」だと思ったのは、東京都文京区、本郷の菊坂周辺です。



「東京+雪」というイメージの水面に浮かび上がってきたのが樋口一葉さんの日記や作品だったので、
彼女が住んでいた菊坂あたりの素晴らしい路地を散策し、時は違えど同じ空間で同じ雪に包まれながら
往時に思いを馳せてみようかな、という思いに至りました。





樋口一葉旧居前
「樋口一葉旧居前」



↑東京大学の前、ゆったりと大きな曲線を描く菊坂をゆるゆる歩き、
思わず通り過ぎてしまいそうな、慎ましやかな路地に迷い込んでみると
かつて樋口一葉さんの旧居があった場所に至ります。





樋口一葉の井戸と路地
「樋口一葉の井戸と路地」


↑(もちろん、当時の井戸にポンプなんて便利な代物はなかったでしょうが)
こちらの井戸は、樋口一葉さんが日々の暮らしの中で実際に使っていた井戸だそうです。











 さて、樋口一葉さんと言えば「にごりえ」や「たけくらべ」あたりを代表作に挙げる方が多いでしょうか。


淀みなく流麗極まる言葉の清らかさと、それらの言葉が織りなす印象世界の中に
日本画や俳句、詩のごとき余韻、空間を残し、読んだ人各々がそれぞれのイメージを更に描き足す事のできる
美しい余白とで構成された作品の圧倒的な質の高さによって、彼女は文学界の頂点に燦然とその名を残しています。



現代人にも内容が読み取れる文章でありながら、古典が奏でる響きの美しさを融合させた文体は「雅文体」と呼ばれ
当時の様々な文豪達も好んで用いましたが、個人的には、やはり一葉さんによって洗練され、編まれた雅文体は
他の誰よりも遥かにエレガントで、自然な調和がとれている、と感じています)



…とは言え、もしも後世に残されたのがそれらの「作品」だけだったら、
どこか厭世観が漂い、人間を少し離れた位置から観察している、なんとなく醒めた文筆家、というような
親しみにくい印象しか残らなかったかもしれません。



一葉さんが今でも多くの人に愛されているのは、やはり「日記」の存在が大きいかな、と思います。



彼女が夭逝されてから十数年後、妹の邦子さんが世に出した一葉さんの日記に秘められていたのは、
「半井桃水」さんという、当時小説の指導をしてもらっていた男性に寄せる、ほのかな想いでした。


この、文人というヴェールを纏った「樋口一葉」ではなく、「樋口夏子」ちゃん、という一人の女の子によって
日記に綴られた言葉の行間から淡く香り立つ乙女心に、胸ときめかす方も多いのではないでしょうか。



・・・・・・や、女の子の日記をネタにするなんて悪趣味だとは思いますし、
もしも一葉さんが天国からこちらを眺めていたら



「いやあああああ!!!また私の日記が現世でネタにされてる!!!


あ~も~『日記は焼き捨てちゃって』って、くにに頼んでおいたのに、あの子はほんとなにしてくれてんのよも~!!
きゃ~恥ずかしい~うわ~恥ずかしい~やめて~ほんとやめて~
あ~も~一生が終わってもこれか~あ~嫌だ~もうほんとやだ~
お願いだからもうこれ以上、半井先生関係の日記に触れたり晒したりしないで~うわわ~ひ~///」



・・・と、耳まで真っ赤にした顔を雲にうずめて、ジタバタと大悶絶しているかもしれません。








だが断る。








というわけで、今回は樋口一葉さんの日記の中でも特に萌え度MAX、胸キュンキュンな
「半井先生におしるこをごちそうになった明治二十五年二月四日」の日記を引用、
彼女が過ごした本郷、菊坂あたりに当時を偲ばせる雪の舞う写真と共にお送りしようと思います。


(※太字が日記の原文で、旧字を探すのが面倒な所などは現代字で表記してますが、これは間違ってるかもしれません。

また、参考程度に、斜体で俺流の適当な現代語訳も一応つけておきますが、これも雑な上に間違ってるかもしれません。

つまり、宿題や研究にコピペでそのまま使えるようなレベルの文章じゃないって事です、残念。


それから、日記原文に出てくる「半井うし」の「うし」とは、昔の言い方で「先生」というような意味の敬称です。
「うし=御師」みたいなイメージで読んで下さいね。)
















雪の日 樋口一葉旧居前にて
「雪の日 樋口一葉旧居前にて」






 明治二十五年 二月四日。



早朝より空もやうわるく、雪なるべしなどみないふ、十時ごろより霙(みぞれ)まじりに雨降り出づ、
晴てはふりふりひるにもなりぬ、よし雪ならばなれ、なじかはいとふべきとて家を出づ、


眞砂町のあたりより綿をちぎりたる様に大きやかなるもこまかなるも小止(こやみ)なくなりぬ、
壱岐殿坂より車を雇ひて行く、前ぼろはうるさしとて掛させざりしに風にきほいて吹いるる雪のいとたへがたければ
傘にて前をおほひ行くいとくるし、九段坂上るほどほり端通りなどやや道しろく見え初めぬ、



(※きほい=競ひ…激しい勢い、あるいは争う、散る、という意味

古文の「うるさし」は「うっとうしい」、「面倒」、「わずらわしい」、という意味と、
真逆の「立派」、「優れている」、という意味で使われる場合の二パターンがあり、
古文の試験で底意地の悪い引っ掛け問題としてよく登場します。

これは話の前後の内容、流れをつかまないと、肯定と否定、どっちの意味か判別できません。

現代の「音がやかましい」というような意味で使われるのは滅多に見ないので、受験生のみんなは気を付けてね。)



 早朝から空模様が悪く、雪になるんじゃないか、とみんなが言っている。


十時ごろから霙まじりの雨が降り出し、晴れたかと思えばパラパラと降ったり止んだりでお昼になる、
よし、雪になるならなれ、全然どうって事ないんだから、と思って家を出た。


真砂町の辺りから綿をちぎったような大小の雪が降り続き、壱岐殿坂から人力車を雇って行く。
前にかける幌はうっとうしいので掛けさせなかったら、激しい風と共に吹きつける雪があまりに耐え難いので
傘を前に差してみたけど、つらくってしょうがない。九段坂を上ってほり端通りあたりで道が白く見え始めた。






樋口一葉旧居跡の路地にて
「樋口一葉旧居跡の路地にて」






平川町へつきしは十二時少し過る頃成けんうしが門におとづるるにいらへする人もなし、
あやしみてあまたたびおとなひつれど同じ様なるは留守にやと覚えて、しばし上りがまちにこし打かけて待つほどに、
雪はただ投ぐる様にふるに、風さへそひて格子の隙より吹入るる寒さもさむし、
たへがたければやをら障子ほそめに明て玄関の二畳斗(ばかり)なる所に上りぬ、
ここには新聞二ひら(但し朝日、國會)配達しきたりたるままにあり、朝鮮釜山よりの書状一通あり、



(※いらへ…答へ=返事   あまたたび=何度も
   
 そひて…添ふ・副ふ=この場合は「更に加わって」という意味かな?

 おとなひ…この場合は音なふ=音をたてる、という方の意味だろうと思います。
     古文には同じ「おとなひ」でも訪ひ=訪れる、という意味の言葉もあります。

 上りがまち:上り框…玄関の上り口で、土間と廊下との境目に貼りつけてある横木の事をそう呼  ぶらしいです)



平川町へ着いたのは十二時少し過ぎた頃、先生の家の門前に来たけれど、(呼んでみても)返事をする人がいない。


どうしたのかしら、と思って何度か門を叩いて呼んでみたけれど同じなので留守だろうと思い、
少しの間玄関の上り口に座って待っていたけど、雪は投げるように降り、風もいよいよ増して格子の隙間から吹き込み
あまりに寒すぎて我慢できないので、障子を少し開けて、玄関の二畳ぐらいの所に上がらせてもらった。


ここには新聞が二紙、配達されたままになっていて、釜山からの手紙が一通あった。







雪の炭団坂
「雪の炭団坂」






唐紙一重そなたがうしの居間なれば明けだにせば在否は知るべきながら、
例の質(たち)とて中々には入りもならず、ふすまの際に寄りて耳そばだつれば、
まだ眠りておはすなるべしいびきの声かすかに聞ゆる様なり、


いかにせんと斗困じたる折しも、小田よりなりとて年若きみづしめ郵便をもて来たりぬ、
こはうしの此頃世にかくれて人にあり家しらせ給はねば親戚などの遠地にある人々より
書状みな小田君へむけてさし出し給ふなるべし、この使ひもこれ持来たりたるままうしをば起しもせで
よろしくなどいひて帰りぬ、一時をも打ぬ、心細くさへなりてしはぶきなどしばしばする程に、目覚給ひけん



(※みづしめ…みずしめ=水仕女。主に台所仕事をする下女さんの事だそうです
 
 しはぶき…咳、せきばらいの事だそうです。この場合は先生を起こすためのせきばらいかな?)



つとはね起る音して、ふすまはやがて開かれたり、寝まき姿のしどけなきを恥ぢ給ひてや、
これは失礼と斗(ばかり)いそがはしく廣袖の長えりかけたる羽織き給へり。



(※しどけなき=だらしない)



ふすま一枚隔てた向こう側は先生のお部屋なので、開けてみれば先生がいらっしゃるかどうかわかるんだけど、
なにせ私のこの性格で、中に入るなんてできるわけもなく、ふすまのそばに寄って耳をそばだててみると
どうやら先生はまだ眠ってらっしゃるらしく、いびきがかすかに聞こえるようだ。


どうしよう、困ったなぁ…と思っていたら、「小田さんからです」と言って若い女中さんが手紙を持ってきた。


先生は最近世の中から隠れた暮らしをなさっていて、みんなに自宅の場所を教えないので、
親戚など遠くに住んでいる人々は皆、先生の家を知っている小田君宛てに手紙を出すのだ。


女中さんも、この手紙を持ってきたまま先生を起こしもせず、「よろしく」などと言ってさっさと帰ってしまった。


やがて一時になり、さすがに心細くなってきたので
「……こほん……こほんこほん……ん~ごほんごほん!!」
と何度か咳ばらいをすると、先生がお目覚めになられた。


バサッと跳ね起きる音がしてふすまが開かれたが、
先生は寝起きの寝間着姿がヨレヨレでだらしないのを恥ずかしがって
「こ、これは失礼!」と、大慌てで広い袖と長襟の羽織を着込まれた。







お~い ご主人~ はやく開けるにゃ~
「お~い ご主人~ はやく開けるにゃ~」






よべ誘はれて歌舞伎座に遊び一時頃や帰宅しけん、夫より今日の分の小説ものして床に入しかば思はずも寝過しぬ、
まだ十二時頃と思ひつるにはや二時にも近かりけり、など起しては給はらざりし遠慮にも過ぎ給へるよとて
大笑しながら、雨戸などくり明け給ふ、あなや雪さへ降り降り出でたるにさぞかし困じ(こうじ)給ひけんとて
勝手のかたへ行、手水などせんとなるべし、



(※夫より…「おっと」や「旦那」という意味ではなく、古文で文頭につく「それ」という意味だろうと思います。

手水…手や顔を洗う事。水道が無く井戸が主流だった時代は、手水鉢に水をためて手や顔を洗っていたようです。



……これは本文と全然関係ないけど、明治後半になると手水器(手洗器)が登場します。


手水器(手洗器)の画像検索


昔の大きい家などで、外のトイレの横などにぶら下がっていて、下の棒を押すと手洗い水が出てくる、
バケツみたいな桶みたいなアレ、ご覧になった方、覚えていらっしゃいますか?

あれ、手水器という名前だったんですねぇ。なんと、まだ現役で販売されているんですね!)



先生は


「いやぁ、昨日の晩は誘われて歌舞伎座へ遊びに行き、帰宅したのは夜中の一時頃だったかな、
それから今日の分の小説を書いて布団に入ったら、思わず寝過ごしてしまいました!

まだ十二時頃だろうと思ってたら、もう二時近いじゃないですか、構わず起こしてくれて良いのに、
あんまり遠慮し過ぎですよ、あっはっは!」



などと大笑いしながら雨戸をガラガラと開けていき、


「うわぁ、雪が降ってるなぁ!これじゃあ、ずいぶん困ったでしょう?」



と言いながら、きっと顔を洗うためだろう、お勝手へと行かれた。






炭団坂より続く道
「炭団坂より続く道」






一人住みは心安かるべけれど、起るやがて車井の綱たぐるなど中々に侘しかるべきわざかなと思い居たるに、
「?」(←解読不明な字、「臺」(台という字の旧字)のように見えます)じうのといへるものに
消炭少し入れて其上に木片の細かにきりたるのをのせてうし持て来たまへり、



(※古文の「やがて」は、「すぐに、そのまま」という、現代とまるで違う意味で用いられる場合もあります。
これも古文のテストでは引っ掛け問題で出やすいので、受験生のみんなは注意してね。

台じうの…多分、台じゅうのう=「台十能」という、火がついた炭を運ぶために用いられる
台座がついたお鍋のような道具の事だろうと思います)



火桶に火起し湯わかしに水入れて来るなどみるめも侘しくて、おのれにも何か手伝はし給へ、
お勝手しれがたければ教へ給ひてよ、先づこの御寝所かた付ばやとてたたまんとしたるに、
うしいそがはしく押とめ給ひて、いないな願ふ事はなにもなし、それは其儘(そのまま)に置給ひてよと
迷惑げなるにおしてはいかがとてやみぬ、枕もとにかぶき座番付さては紙入れなど取ちらしあるに、
紋付の羽織糸織の小袖など床の間の釘につるしあるなどらうがはしさも又極まれり、



(※番付…歌舞伎のパンフレットを「番付」と言います

さては…ここでは接続詞の「そして、更に」等の意味かと思います

紙入れ…明治時代なのでお財布、という意味かと思います。
江戸時代までだと紙幣が無いので、鼻紙や爪楊枝などを入れる小物袋の事を意味するようです。

らうがはし:ろうがはし…乱がはし=「乱雑」「むさくるしい」という意味、これもテストで出やすいんじゃないかな)



一人暮らしは、まぁ、気楽なんだろうけれど、起きてすぐに井戸へ行き、綱をたぐる様子なんかを見ていると
なんだかちょっと切ないわねぇ、なんて思っていると、
先生は「台十能」と呼ばれている道具に消し炭を少しと、その上に細かい木片を乗せて持っていらっしゃった。


火桶(火鉢)に火を入れたり、やかんに水を入れて持って来る様子など、いかにもみすぼらしくて見ていられないので、


「私も何か手伝いますよ、何をすれば良いのか教えて下さいな、とりあえずお布団を片付けましょうか」


と先生のお布団を畳もうとしたら、先生は慌てて止めに入り、


「あ~いやいやいやいや、お願いする事は何もないですよ、大丈夫大丈夫、
もう、布団も何も、そのままで、ええ、全部そのままで置いておいて下さい、うん、うん」

と、なんだか迷惑そうなので、まぁ無理強いもできないかと思い、やめておいた。


枕元には歌舞伎座のパンフレットやお財布などが散らかしたままになっているし、
羽織や小袖などの着物も床の間の釘に引っ掛けてあるだけだし、
もう、男やもめのむさっ苦しさ大爆発、といった感じ。







公園に雪の降る
「公園に雪の降る」






昨日書状を出したる其用は今度青年の人々といはばいたく大人顔する様なれど、
まだ一向小説にならはざる若人達の研究がてら、一つの雑誌を発兌せんとなり、
世にいはゆる大家なる人一人も交へず、
腕限り力かぎり倒れてやまんの決心中々にいさぎよく、原稿料はあらずともよし、
期する所は一身の名誉てふ計画ありて、一昨夜相談会ありたるままこは必ず成り立つべき事と思ふに、
君をも是非とたのみて置きぬ、十五日までに短文一編草し給はずや、



(※「発兌」=はつだ、書籍や新聞を発行する事   「草し」=草する、下書きを書くという意味)


尤も(もっとも)一二回は原稿無料の御決心にてあらまほしく、
少し世に出で初めなば他人はおきて先づ君などにこそ配当いたすべければなどくれぐれの給ふ、
さりながらおのれら如き不文のもの初号などに顔出しせんは雑誌の為め不利益にや侍らむとて辞せば、
何としてさることやある、今更に其様なこと仰せられては中に立てそれがし甚だ迷惑するなり、
先方にはすでに当てになしたることなればなど詞(ことば)を盡して仰せ給ふ、



(※あらまほし…望ましい、そうあって欲しい、好ましい    不文…ふぶん=学問が無い事、文章が下手な事


「盡」=「尽」という字の旧字です。

「書」という漢字に似ている、やたら紛らわしい旧字がいくつかあって・・・
小さい字じゃわかりにくいだろうから、大きい字で書こうね)


「盡」=「尽」の旧字

「畫」=「画」の旧字

「晝」=「昼」の旧字


です、はぁ( ;´Д`))



先生いわく

「いやぁ、昨日の手紙で君をここへお呼び立てした用件についてなんですが、
今度、青年の人々…なんて言い方をすると、ずいぶん偉そうな顔をするようだけれど、
まだ小説に全く慣れていない若い人達の研究も兼ねて、
実は、新しく雑誌を発行しようと思うんです!


世間に知られた有名な作家の先生達は、誰も呼ばない!!
腕の限り、力の限り、倒れる時は前のめり!!
原稿料だって全然いらない!!
ただ僕達の小説を世間に認めてもらえれば、その名誉で充分なのだー!!


…という気合の入った決心をしまして、昨晩みんなで相談会を行い、これはもうきっと上手くいく、と思って
君も是非参加させて欲しい、とみんなに頼んでおいたんです。

そんなわけで、良かったら十五日までに、下書きで良いですから、短編を一編、書いてもらえませんか?



まぁ最初の一、二回だけは原稿料無し、という心積もりでいて欲しいんですが……。

やや、もちろん、少しでも世間に名が知られ始めるようになったら、その時は
他人など差し置いて、真っ先に、君に原稿料を御支払いしますよ……」

など、熱意を持って新雑誌に誘っていただく。


「……でも、私みたいに文章を書くのが下手な人間が創刊号なんかに顔を出したら
雑誌の不利益になりますから……」

と言ってお断りしたのだけれど、


「あっはっは、何を言ってるんです、そんな事ありゃしませんよ!
今更そんな事を言われても、間に立った僕がとても困っちゃいます。
みんなはもう、とっくに君の事を当てにしているんですよ」

など、言葉を尽くしておっしゃられる。





さればよろしく取斗らひ(とりはからい)給ひてよ、実はこの頃草しかけし文御めにかけばやとて今日もて参りぬ、
完成のものならねどとて持てこし小説一覧に供す、よろしかるべしこれ出し給へ、
おのれは過日ものがたりたるもの一通の文としてあらはさばやと思ふなりなどものがたらる、



「……それではよろしくお願いします!
……実は、最近書きかけた小説の下書きをご覧にいれようと思って、今日も持ってきたんです、
まだ完成はしていないんですけれど……」

と言って小説をお見せすると、


「……うん、良いですね、これを出して下さい!
僕は先日お話した事を小説にしてみようかな、と思っているんですよ」


などと色々なお話をして下さった。






雪の炭団坂 2
「雪の炭団坂 2」





其中うし隣家へ鍋をかりに行く、とし若き女房の半井様お客様がお楽しみなるべし御浦山しうなどいふ声、
垣根一重のあなたなればいとよく聞ゆ、ィャ別して楽しみにもあらずなどいふはうしなり、
先頃仰せられしあのおかたかと問はれて左なりといひたるまま、かけ出して帰り来たまへり、






やがて先生はお隣の家へお鍋を借りに行った。

垣根のすぐ向こう側で、お隣の若い奥さんと先生がお話しているので

「半井さん、お客さんとお楽しみですわねぇ、まぁ~おうらやましい、いっひっひ J(`ー´)し」

などという奥さんの話し声がよく聞こえてくる。

「ぁ、ぃゃ、別に、楽しんでいる、というわけでは……はは……( ;´Д`)」と先生。


「先日仰られていた、例のお方かしら? J(`ー´)し」

「ええ、そうです、ははっ、ではでは( ;´Д`)」と言いながら、先生はダッシュで逃げ帰ってきた。








雪ふらずばいたく御馳走をなす筈なりしが、この雪にては画餅に成ぬとて、手づからしるこをにてたまへり、
めし給へ盆はあれど奥に仕舞込みて出すに遠し、箸もこれにて失礼ながらとて餅やきたるはしを給ふ。







「いやぁ、雪が降らなければ御馳走でおもてなししようと思っていたんだけれど、この雪じゃあ絵に描いた餅だなぁ…」

と言いながら、先生は自らお汁粉を煮て下さって、

「さぁできましたよ、召し上がれ!
…お盆はあるんだけど、奥の方にしまいこんじゃって引っ張り出すのが面倒くさいから、なくても別にいいよね?
お箸もこれで失礼」と、お餅を焼いた箸を、そのまま渡された。








ものがたり種々うしが自まんの写真をみせなどし給ふ、暇をこへば、雪いや降りにふるを
今宵は電報を発してここに一宿し給へと切にの給ふ、などかはさることいたさるべき、
?し(ゆるし)を受けずして人のがりとまるなどいふ事いたく母にいましめられ侍ると
真顔にいへば、うし大笑し給ひてさのみな恐れ給ひそ、おのれは小田へ行てとまりて来ん、
君一人ここに泊り給ふに何のことかはあるべきよろしかるべしなどの給へど、
頭をふりてうけがはねばさればとて重太君をして車やとはせ給ふ。


(※「?」=免の旧字が書いてあります
   
 「うけがはねば」…うけがふ(うけがう)=肯ふ(肯う)の否定、「肯ふ」は承知する、肯定する、という意味)



半井うしがもとを出しは四時頃成けん、白がいがいたる雪中、りんりんたる寒気をおかして帰る、
中々におもしろし、ほり端通り九段の邊、吹かくる雪におもてもむけがたくて
頭巾の上に肩かけすつぽりとかぶりて、折ふし目斗(ばかり)さし出すもをかし、
種々の感情むねにせまりて、雪の日といふ小説一編あまばやの腹稿なる。

家に帰りしは五時、母君妹とのものがたりは多けれどもかかず。



(※「邊」=辺の旧字、あたり、ほとり   

折ふし=「折節」、副詞だと「ちょうどその時」か「時々」のどちらか、名詞だと「季節」、「その時々」という意味

あまばや…多分、編む(あむ)…この場合は文章を構成、編集する、というような意味で用いているのではないかと)










先生とたくさんお話をしたり、ご自慢の写真も見せてもらったりした後、そろそろ帰ります、と言うと、


「今も雪が激しく降り続けているから、今夜はご家族に電報を出して連絡したら、
うちに泊まっていけばいいですよ、ね」と、熱心に薦められた。




!!!!!




「い、い、いえ、いえいえ!! そ、そんな事できません!!
…私、私、許可を得ずによその方のお家に泊まるなんて、そんな、そんな事をしたら、
母にこっぴどく怒られてしまいます!!」


とビックリして真顔で答えたら、先生は


「あっはっは!なにをそんなに怖がる事があるんです!

いや、僕は小田君の家へ行って泊まってきますから、君が一人だけここに泊まればいい、
なんの問題もないでしょう、あっはっは!」


と大笑いしながら仰ったんだけど、私はもう、ただひたすら頭を横に振ってお断りし続けたので、
先生は、う~ん、それでは、と言いながら、重太君に人力車を呼んでもらうよう頼んだ。



半井先生のお宅を出たのは、夕方の四時頃。


あたり一面白銀の世界、凍てつく寒さの中を帰るのは、なかなかに乙なものだ。


ほり端通りの九段の辺りで、吹きつける雪に顔を向ける事もできず、
頭巾の上から更に肩掛けをスッポリとかぶって、時々目だけをギョロリと出すのも妙に面白い。



色々な気持ちが心の中でゴチャ混ぜになって、
「雪の日」という小説を一編書いてみようかな、と思いつく。


家に着いたのは五時、お母さんや妹との話もたくさんあるんだけれど、書かない。







本郷 雪
「本郷 雪」













 ・・・・・・いかがでしたか?


いかにも女の子らしい、とってもスイートな内容に
血糖値がグングン上昇してしまった方も多いんじゃないでしょうか(´∀`)



さてさて、樋口一葉さんが半井桃水先生に抱く、淡い恋心の行方やいかに?
完成した小説「雪の日」の内容は一体?


この続き、その後が気になる方は、是非とも本をお買いになって…


と、素直に煽りたい所なんだけど…



・・・・・・。



ともかく「これぐらいの擬古文だったらどうにか読めそうだな」と感じた方は、
解説も何も一切無し、全作品と日記、手紙が全部ひたすらそのまま載っているだけ、という
ストイックさが極まる本「愛蔵版 ザ・一葉」(第三書館)とか、それから、作品の現代語訳だけじゃなくて
彼女の日記も、ちゃんと現代語訳された本が出版されているらしいので、興味のある方はそちらも是非どうぞ(^^)



……ん?



今、遠くの方で



「だから日記はお薦めしないでぇぇ~~~」という女の子の絶叫と

「あっはっは」と大笑いする男性の声が聞こえたような……。





それから、本郷・菊坂辺りについても(少なくとも今回は)、見所等について、細かい紹介はいたしません。


この周辺はもう、路地マニア、坂マニアの聖地でしょう。


とにかくどこへ行ってもどっちを向いても素晴らしい風情にたくさん出会えますので、
まずは是非ともふらりと足を運んでみて、どんどん迷子になって彷徨ってみて下さいね(^^)





…ぷはぁ、やっと書けた( ;´Д`)





2014年3月13日木曜日

東日本大震災から三年。






2014年、3月。





東日本大震災から、三年。





「~(前略)~ 

 政府一丸となって 現場現場の声を聞き すぐさま行動へ移していく
 そのことを 今日 あらためてお誓い申し上げます。

 ~(略)~

 東北に春が来ない限り 日本に本当の春はやってきません。
 一日一日の重さを忘れることなく 必ずや 復興を加速させて参ります。」


一年前の2013年3月11日 「3.11をむかえて?安倍総理のメッセージ?」という動画より抜粋)




「被災地を始め全国各地では、いまだに多くの方々が不自由な生活を送られています。
原発事故のためにいまだ故郷に戻れない方々も数多くおられます。
今を懸命に生きる人々に、復興を加速することで応えることが、
天国で私たちを見守っている犠牲者の御霊に報いる途でもあるはずです。


 持てる力の全てを注ぎ、被災者に寄り添いながら、
一日も早い被災地の復興、被災者の生活再建を成し遂げるとともに、
今般の教訓を踏まえ、我が国全土にわたって災害に強い強靭な国づくりを進めていくことを、
ここに固くお誓いいたします。」


一年前の平成25年3月11日、東日本大震災二周年追悼式にて、安倍晋三 内閣総理大臣の式辞より抜粋)



…等々、内閣総理大臣のお言葉より一年。





・全国の避難者等の数は、約26万7千人。

・全国47都道府県、約1,200の市区町村に所在。



(平成26年2月26日、復興庁の「全国の避難者等の数」というページより)





仮設住宅の入居者数は102,650人、46,275戸。

(平成25年10月現在、内閣府の調べによる)





(月末時点で完成する災害公営住宅(家賃が有料の住宅)は2144戸、計画全体の9.1%。

東日本大震災から3年目にして、災害公営住宅が全戸完成したのは、岩手県久慈市と岩泉町、洋野町の3市町のみ。

(2014年3月9日付、MSN産経ニュースより)





岩手、宮城、福島の3県で完成した防潮堤は全体のわずか5%。

(9%は着工にも至っていない、との事。

(3月11日付、「NHK ニュースウェブ」より)





災害廃棄物の処理状況は岩手、宮城、福島の三県で95.2%。

数値上の見かけは大分進んだように見えるが、福島県に限ると処理割合は68.4%。(避難区域は除かれている)

うち広野町は49.6%、南相馬市は34.4%。

(平成26年1月31日現在)

(復興庁のサイトより、環境省がまとめた「岩手県・宮城県・福島県(避難区域を除く)の災害廃棄物等の処理状況」による)






ここ数日、各ニュースの主な項目には、東京オリンピック関連の話題と
「大手企業の基本給賃上げ(ベースアップ)回答相次ぐ」、という華やかな見出しが並ぶ。





2014年、3月。





東日本大震災から、三年。





2014年3月10日月曜日

絶対、夜中に見てはいけない話。




警告: この話を絶対に夜中に見てはいけません。
     ブラウザの「戻る」ボタンでお戻り下さい。
     もし夜中に見て、貴方の理性が恐るべき欲望に支配されてしまったとしても、当方は一切関知いたしません。











よし、警告完了。



というわけで、前回の予告とは全っ然関係ない話で恐縮なんですが(;´∀`)、
今日、お昼に余り物などで適当に作った料理が美味しかったので、ほとんど自分用のメモとしてですが
レシピを載せておこうと思います。





決して夜中に見てはいけない写真
「決して夜中に見てはいけない写真」



作ったのは、豆腐チャンプルー的な、何か・・・豆腐卵もやし炒め、みたいなものです。


「うま~い!!なんだこの料理は~!!え~い、女将を呼べ~い、女将を呼べ~い!!」というわけで
あんまり美味しかったので、すごく丁寧に執念深く写真を撮り続けていたら
ヒエヒエに冷めてしまいました・・・うう・・・(´・ω・`)



ともかく、以下に調理法です。

と言ってもザッと炒めるだけで、俺でさえ簡単にできる料理なので、それほど書く事もないんだけども。



【調理法】


・鍋を熱し、ガーリックオリーブオイルをひく

島豆腐、ポークランチョンミート、もやしと卵を中火でサッと炒めながら
塩をパラパラッと振り、味覇(ウェイパァー)小さじ1~2ぐらいを全体にからめるように和えたら完了。



【ポイント】


島豆腐。


別に木綿豆腐でも良いんだろうけど、やっぱり少しお高くても炒め物にはお大尽して島豆腐がモアベターだと思います。

「島豆腐」とは沖縄の豆腐の事、かなりしっかりして硬さがある。
特にチャンプルーは島豆腐を使わないと、「なんか違う」感が滲み出てしまいます。


味覇(ウェイパァー)。


調味料の「味覇(ウェイパァー)」は、野菜炒め一人前に対して、小さじ山盛り1ぐらいが丁度良いかな?
どんな料理も中華街の味になる炒め物最強の調味料だと思うけど、多く入れすぎるとしょっぱくなりすぎるので注意。


中火で。


今回の食材は特に火が通りやすいものばかりで、あっという間にできるので、
変に強火にしたり、長時間熱し過ぎたりせず、「良い香りがして、調味料が全体にからんだっぽい」ぐらいで
ストップしておいた方が、もやしシャキシャキで美味しいと思います。


本や漫画で炒め物が登場すると「強火で一瞬にして旨味を封じ込めるのじゃ!!」みたいな表現をよく見るんだけど、
あれは多分、一瞬で調理を終わらせる事ができ、鍋をあおる時に持ち上げると、火元から鍋が離れてしまうので
どうしても火力が低下してしまうプロの料理人専用の話なんじゃないかなぁ、と。


俺らみたいなド素人が強火でモタモタ料理してると
特にほとんど水分のモヤシなんか、どんどん消滅していっちゃうので切ないし、
高熱によって食材の栄養素が無駄に破壊されるような気もします(←これは俺個人の単なる思い込み、根拠無しです)


野菜炒めなんかでも、中火の方が野菜の甘みが残って美味しいと思う・・・んだけど
野菜が苦手な方には、強火で野菜をしんなりさせた方が食べやすいかな?



まぁともかくあれだ、味覇使えばなんでも美味いよね(^^)