2016年7月7日木曜日

絶望の轍




新しいアジトを確保し、引っ越した。


引っ越し屋さんは頼まず、この一月、帰宅してからほぼ自分一人で少しずつ荷物を運び
大の苦手な「環境の変化」という状況下で、どうしても避ける事のできない
電気、電話、ガス、水道等の開設に伴う「知らない人と電話越しにアドリブで話す」
「工事の人達と楽しくお話する」、といった最高難易度の強制イベントが次々発生し
著しく精神状態が不安定な折、引っ越し作業が進行するのと歩を合わせるようにして
おみその老化も加速度的に進行してしまい、ほんとうに、もう、なんと言ったらよいか、
深い泥沼の中で重い泥に全身を絡め捕られているような心持ちだ。





宇宙史上最も可愛く最も素晴らしいと言われているおみその写真
「大宇宙の至宝 おみそ Lv.15」










上の写真は5月頃に撮ったものだが、この後、引っ越しを決めた頃に
突然あちこちで猛烈に吐いて、粗相して、ぐるぐるとその場で回り続けて、を
ひたすら繰り返し、病院で治療してもらったのだが、それ以降は急激に老け込み、
血膿でくしゃくしゃになった目をろくに開ける事もなく、ただじっと横になるだけになってしまった。


数週間前までは、おみその傍で横たわり、いつまでもくよくよし続けていると
見るに見かねたおみそのスイッチが入り、目にクワッと光が満ち
立ち上がってグーンと伸びをした後「なんでもないわよ」と、いつもの偉そうな顔で
以前のようにトストスとヒザの上に乗ってきてデレーンと伸び寝をしたのだが、
最近は俺が抱っこしてやらないと、目も全く見えていないようで、全然こっちに来ない。


食欲も一気に落ちてしまったようで、ここの所ちゅーるもカロリーエースも全然食べず
あんなにしなやかでプニプニしていた体は、相も変わらず大きく偉そうな頭に比して
抱っこするとすっかり軽く、細く、固くこわばって
撫でるとゴツゴツと骨が浮き出てしまい、夏なのに、全然暑くない。


おみそがこんな状態で、ただでさえ食欲のあまり湧かない俺もいよいよ食う気が失せて
ここ一月で一気に5kg前後痩せてしまい、未だズルズルと体重の減少が止まらない。


それでも数日前まではヒザに乗せれば時々猫タッチしたり腕にしがみついたり顔を埋めたり
していたのだが、今日に至っては呼吸さえ全然しなくなってしまい、
いつまで経っても、何も、全く反応してくれなくなってしまった。


固く小さくしぼんでしまったゴツゴツの体をヒザにのせて、今はただ撫でる事しか思いつかないが
ここから何か、元の元気で偉そうな状態に治す方法が、何か、ないだろうか。







生体は、成長の過程において細胞分裂と、同時にDNAのコピーを盛んに繰り返し
体をより強く、大きく作り変えて行き、やがて成長が止まった後は、
細胞分裂の速度も次第に落ち始めると同時にDNAのコピー時にもエラーが発生するようになり、
次第に生命活動の終息へと向かう。


すなわち、脳か、細胞分裂時、DNAのコピー時か、どこだか知らないが
体内のどこかに「今まで経過した時間」を蓄積し、認識する
タイマーのようなシステムがあるのではないか。

そのシステムにエラーを起こさせるなり、破壊するなりした後
時計の針を若い状態で止めるなり書き換えるなりしておけば、
あとは必要な分のエネルギーを供給し続けるだけで
永遠に若い状態を保ったままで活発な細胞分裂、成長をし続けられるんじゃないのか。


この分野においては、ファンタジーやSF、本やゲームなど、現実以外の世界では
不老長寿や不死、蘇生の呪文、道具など目覚ましい発展をとげ日々研究の進歩も著しく
あちこちの世界の魔王や悪の組織は不死の軍団を大勢引き連れ、
日夜世界征服の大願成就目指し気炎を上げ、みんな頑張っている。


もし現実世界にアンブレラ社があったら、我が知識をフル活用して調合した特製ガスと薬を用いて
社屋の空調と飲料水を制圧し襲撃、Tウィルスを強奪して速攻でおみそに投与するし
あるいは現実世界にベヘリットが存在するなら、最愛の人など誰もいないので
とりあえず現実世界の人間を躊躇なく、片っ端から何万人でも何億人でも
妖魔へ生贄に捧げておみその若さと健康を取り戻すのだけれど、
他にも羽生蛇村の赤い水だとか、かぐや姫の不老不死の薬だとか、
とにかく思いつくのは全て現実以外の世界の話ばかり、
逆に肝心の現実世界の連中はどいつもこいつもアンデッドの研究にちっとも手を付けない
ポンコツのダメ人間ばかりで、今の所、現実世界でどうしたらよいのか、何も思いつかない。


とりあえずわからない事があったら神保町か、
あすこで何か、賢者の石の製造法に関するような本だとか
不死のヒントに繋がりそうな本を探してみようか、
あすこに行けばどんな本でもある、なんでもわかる。どうにかなるかもしれない。


あー どうしたらいいだろう。なにか手がないだろうか。
とりあえず次善策として、おみそのクローンを産み出す時用に抜け毛を採取して保管しておくが
なにか元に戻す手段が何かないか、何か、元に戻す手段が、なにか、ないだろうか。


あああー どうしよう。 どうしよう。 なんとか、どうにかならないだろうか。なにか手がないか。
灯台下暗しで、意外と、何か、うっかりして気付いていない手段が、なにか、あるんじゃないか。


あああー あー ああー